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大阪高等裁判所 平成5年(う)793号 判決 1994年4月20日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人下村忠利作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意中、訴訟手続きの法令違反の主張について

論旨は要するに、原判示第一および第二の各事実につき、検察官が証拠として請求した原審標目番号五ないし九および八二ないし九二の証拠のうち、ビニール袋入り覚せい剤白色結晶一袋等の証拠物(原審標目番号五、八二ないし八七)は、被告人方で差し押さえられたものであるところ、捜査官は、被告人方を捜索するにあたり、その玄関前で宅急便の配達を装い、被告人を欺罔して玄関を開錠開扉させたうえ、玄関先で捜索差押許可状を示すことなく、数名が一斉に被告人方室内に立ち入り、右令状を提示する前に直ぐに捜索を開始したものであるから、右捜索は、憲法に定められた令状主義に違反しており、それにより得られた右証拠物は違法に収集されたものであり、鑑定書等の書類(同六ないし九、八八ないし九二)は、それに基づいて作成されたものであるから、いずれも証拠能力を有しないにもかかわらず、これを採用して取り調べた原審の訴訟手続きには、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるというのである。

所論にかんがみ、記録および原審で取り調べた証拠を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、関係証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

大阪府四条畷警察署防犯捜査係長渡辺恭一ら警察官七名は、被告人に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき発付された被告人方の捜索差押許可状を所持して、平成四年八月六日午前八時三〇分ころ被告人方に赴き、その玄関扉が施錠されていたことから、被告人による妨害を避けて被告人方に円滑に入れるよう、チャイムを鳴らし、屋内に向かって「宅急便です」と声を掛けた。これに対し、被告人は、下着姿のまま玄関へ応対に出、扉の覗き穴から外を見ると、私服の警察官の一人が、押収物を入れるための封筒等を入れた段ボール箱を持っていたことから、宅急便の配達人が来たものと信じ、玄関扉の錠をはずして開けたところ、渡辺ら警察官は、直ちに「警察や。切符出とんじゃ」等と言いながら屋内に入った。そして、渡辺は、玄関を入った所にある台所を通り抜け、その次の部屋である四畳半間(被告人方住居のほぼ中央にあたり、全体を見渡せる位置関係にある)まで入り込んでから、同所で、午前八時三五分ころ、被告人に右捜索差押許可状を示し、警察官らは、これを待って被告人方の捜索に取り掛かり、六畳間の本箱内に置かれていたカメラ(原審標目番号八二)の入ったケースの中にビニール袋入り覚せい剤白色結晶一袋(同五は、その鑑定残量)、注射筒一本(同八三)および注射針二本(同八四、八五)が白色チリ紙(同八六は、その断片)に包まれて収納されているのを発見し、右結晶につきマルキース試薬による予備試験をしたところ陽性反応があった。そこで、渡辺らは、同日午前九時二分ころ、被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕し、右逮捕に伴う処分として、右覚せい剤等を差し押さえ、更にその後、奥の四畳半間の物入れ内から注射器一本(同八七)を発見して差し押さえた。

右のとおり、所論が、令状主義に反して違法に収集されたと主張する証拠物は、現行犯人逮捕に伴う必要な処分として、令状によらずに、差し押さえられ(原審標目番号五、八二ないし八六の証拠)あるいは捜索のうえ差し押さえられた(同八七の証拠)ものであって、捜索差押許可状に基づいて差し押さえられたものではないのであるが、覚せい剤結晶等の証拠物(同五、八二ないし八六)は、捜索差押許可状に基づく捜索により発見されたものであるから、右令状に基づく捜索の適法性について、以下検討する。

刑事訴訟法は、捜査官が、捜索差押許可状に基づき捜索差押をする際は、その処分を受ける者に対し当該令状を示さなければならないと規定しており(二二二条一項、一一〇条)、その趣旨は、捜索差押手続きの公正を保持し、執行を受ける者の利益を尊重することにあるから、捜索差押の開始前に、その執行を受ける者の要求の有無にかかわらず、捜査官が令状を示すのが原則であることはいうまでもない。他方、法は、捜索を受ける者に対しても、それなりの受忍的協力的態度に出ることを予定し、かつ、捜査官が、処分を受ける者に直接面と向かい令状を提示できる状況があることを前提にしているものと解される。しかし、現実には、相手方が、受忍的協力的態度をとるどころか、捜査官が捜索差押に来たことを知るや、玄関扉に施錠するなどして、令状を提示する暇も与えず、捜査官が内部に入るまでに、証拠を隠滅して捜索を実効のないものにしてしまうという行為に出ることがないではない。ことに薬物犯罪における捜索差押の対象物件である薬物は、撒き散らして捨てたり、洗面所等で流すなどして、ごく短時間で容易に隠滅することができるものであり、この種犯罪は、証拠隠滅の危険性が極めて大きい点に特色があり、かつ、捜索を受ける者が素直に捜索に応じない場合が少なくないという実情にある。ところで、法は、捜索を受ける者が受忍的協力的態度をとらず、令状を提示できる状況にない場合においては、捜査官に対し令状提示を義務付けている法意に照らし、社会通念上相当な手段方法により、令状を提示することができる状況を作出することを認めていると解され、かつ、執行を円滑、適正に行うために、執行に接着した時点において、執行に必要不可欠な事前の行為をすることを許容しており(一一一条)、例えば、住居の扉に施錠するなどして令状執行者の立入りを拒む場合には、立ち入るために必要な限度で、錠をはずしたり破壊したり、あるいは扉そのものを破壊して、令状の提示ができる場に立ち入ることも許していると解される。所論は、刑事訴訟法一一一条の「必要な処分」も、来訪の趣旨と令状発付の事実を告げて開扉を求め、これに対する明らかな拒絶や罪証隠滅の具体的行為が認められた際に初めて可能となるのであって、当初より虚偽を述べて開扉させたのは違法であると主張する。しかし、一般論として、そのような手順で捜索しても証拠を隠滅される危険性がないときは、所論のいうとおりの手順をとるべきであろうことは論を待たないが、ごく短時間で証拠隠滅ができる薬物犯罪において、捜索に拒否的態度をとるおそれのある相手方であって、その住居の玄関扉等に施錠している場合は、そもそも、正直に来意を告げれば、素直に開扉して捜索に受忍的協力的態度をとってくれるであろうと期待することが初めからできない場合であるし、開扉をめぐっての押し問答等をしている間に、容易に証拠を隠滅される危険性があるから、捜査官側に常に必ず所論のいうような手順をとることを要求するのは相当でない。このような場合、捜査官は、令状の執行処分を受ける者らに証拠隠滅工作に出る余地を与えず、かつ、できるだけ妨害を受けずに円滑に捜索予定の住居内に入って捜索に着手でき、かつ捜索処分を受ける者の権利を損なうことがなるべく少ないような社会的に相当な手段方法をとることが要請され、法は、前同条の「必要な処分」としてこれを許容しているものと解される。

本件は、覚せい剤取締法違反の被疑事実により覚せい剤等の捜索差押を行ったものであるところ、その捜索場所は、当該事件の被疑者である被告人の住居であるうえ、被告人は、覚せい剤事犯の前科二犯を有していることに照らすと、被告人については、警察官が同法違反の疑いで捜索差押に来たことを知れば、直ちに証拠隠滅等の行為に出ることが十分予測される場合であると認められるから、警察官らが、宅急便の配達を装って、玄関扉を開けさせて住居内に立ち入ったという行為は、有形力を行使したものでも、玄関扉の錠ないし扉そのものの破壊のように、住居の所有者や居住者に財産的損害を与えるものでもなく、平和裡に行われた至極穏当なものであって、手段方法において、社会通念上相当性を欠くものとまではいえない。

次に、捜査官は、捜索現場の室内に立ち入る場合、それに先立ち令状を適式に提示する必要があるが、令状の提示にはある程度時間を要するところ、門前や玄関先で捜査官が令状を提示している間でさえも、その隙をみて、奥の室内等捜査官の目の届かぬところで、その処分を受ける者の関係者等が、証拠隠滅行為に出て捜索の目的を達することを困難にすることがあり、そのようなおそれがあるときには、捜索差押の実効を確保するため令状提示前ないしはこれと並行して、処分を受ける者の関係者等の存否および動静の把握等、現場保存的行為や措置を講じることが許されるものと解される。

本件の場合、厳密にみれば、警察官らは、令状の提示前に各室内に立ち入っており、渡辺は、玄関を入ったところにある台所の次の部屋で、住居全体を見渡せる位置にある四畳半間まで入ってから、同所で被告人に捜索差押許可状を示したことが認められるが、渡辺ら警察官は、「警察や。切符出とんじゃ」等と言いながら屋内に入っており、令状による捜索差押のために立ち入ることを告げていること、令状を示した時点では、警察官らは、まだ室内に立ち入ったのみで、具体的な捜索活動は開始していなかったこと、同住居内には、被告人のほか、妻や同居人等複数の者がいて、その動静を把握する必要があったことなどの点をも考えると、これら令状提示前の数分間(被告人は、原審公判廷で一、二分間と供述する)になされた警察官らの室内立ち入りは、捜索活動というよりは、むしろその準備行為ないし現場保存的行為というべきであり、本来の目的である捜索行為そのものは令状提示後に行われていることが明らかであるから、本件において渡辺ら警察官がとった措置は、社会的に許容される範囲内のものと認められる。

従って、本件捜索差押手続きに違法はないから、これにより押収された証拠物(原審標目番号五、八二ないし八七)およびこれに関連して作成された書類(同六ないし九、八八ないし九二)を証拠として採用した原審の訴訟手続きに所論の法令違反はない。論旨は理由がない。

控訴趣意中、事実誤認の主張について

論旨は要するに、原判示第一および第二の各事実につき、原判決は、被告人が、平成四年七月下旬から同年八月六日までの間に、大阪府下もしくはその周辺において、覚せい剤若干量を自己の身体に摂取して使用し(第一の事実)、同年八月六日午前八時五七分ころ、自宅において、覚せい剤結晶約二・二三一グラムを所持した(第二の事実)という各事実を認定したが、被告人は、覚せい剤を使用していないし、所持もしていないから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。

所論にかんがみ、記録および原審で取り調べた証拠を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。

まず、原判示第一の事実についてみるに、関係証拠によれば、いわゆる強制採尿令状に基づき、平成四年八月七日午後六時三七分から七時一〇分までの間に被告人から尿四ミリリットルを強制的に採取し、この尿について、同月一〇日から一一日にかけて鑑定したところ、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンが検出されたことが認められる。

所論は、右強制採尿よりも前に被告人が任意提出した尿からは、覚せい剤が検出されていないのに、その後に強制採取された尿から覚せい剤が検出されたのは不思議であり、強制採取された尿に対し、捜査官が、別の尿を混入しあるいはすり替えるなどした可能性もある旨主張する。たしかに、関係証拠によれば、被告人が、同日午後一時五五分ころ、自分の尿であるという液体を提出し、その液体からは、覚せい剤が検出されなかったことが認められる。しかし、「被疑者花田一郎こと甲野太郎が任意提出した尿の写真撮影報告書」および「被疑者が任意提出した尿と強制採尿により押収した尿の写真撮影について」と題する各書面ならびに原審証人城山義明の供述等関係証拠によれば、被告人は、勾留手続きのため大阪地方検察庁に連れて行かれた際、便意を訴えて大便所に入り、その扉の陰で採取した液体を、自分の尿であるとして提出したのであるが、排出直後の尿は、人の体温とほぼ同じ温度をしている筈であるのに、被告人が任意提出した液体は、排出直後であるというにもかかわらず冷たく、かつ無色透明であったことが認められることに照らせば、被告人は、大便所の便器内にたまっていた水を、警察官の目を盗んで採尿容器に入れ、これを自分の尿として提出したと認めることができ、そうであれば、その液体から覚せい剤が検出されなかったのは当然である。また、証拠を検討しても、強制採尿から鑑定に至る過程で、被告人の尿に対し、その同一性や成分に変更を加えるような作為が行われたのではないかとの疑問を抱かせるような状況は何ら存しない。

そして、関係証拠から認められる人体内に摂取された覚せい剤が、摂取した者の尿から検出される期間および同年七月下旬ころから本件で逮捕されるまでの間の被告人の行動範囲に照らすと、被告人が、原判示第一の期間場所において、覚せい剤を自己の身体内に摂取したことは優に認めることができる。また、覚せい剤を摂取する方法としては、注射または服用等が考えられるところ、どのような方法で行うにしろ、被告人は、それが覚せい剤であることを承知のうえで摂取したものと認めるのが相当であるから、被告人が、原判示第一のとおり覚せい剤を使用したことに、疑いを差し挟む余地はない。

なお、被告人は、尿から覚せい剤が検出されたことについて、パチンコ店で、顔見知りの者から栄養剤の様な物を勧められて、口に入れたところ、苦かったので直ぐに吐き出したことがあり、それが覚せい剤であったかもしれない旨供述しているのであるが、右供述は、その内容自体が疑わしいばかりか、被告人は、栄養剤様の物を口に入れて以来喉が痛いと供述しながら、本件で逮捕された当初は喉の痛みを訴えず、被告人の尿についての鑑定結果が出た後である同年八月一二日になって初めて喉の痛みを訴えていることが、関係証拠から認められることに照らしても、到底信用できない。

次に、原判示第二の事実についてみるに、前記のとおり、被告人方六畳間の本箱内に置かれていたカメラの入ったケースの中に、ビニール袋入り覚せい剤白色結晶一袋が、注射筒等とともにチリ紙に包まれて収納されているのが発見されたところ、右覚せい剤発見前後の状況は、関係証拠によれば以下のとおりである。すなわち、渡辺は、被告人に捜索差押許可状を示してから六畳間へ行き、同室内の本箱に並べられている三〇台位のカメラから調べ始め、前記カメラを手に取ったところ、被告人から、そのカメラにフィルムを入れたいから渡してくれと言われた。そこで、渡辺は、カメラをケースから少し抜き出し、裏蓋の点検孔を見てフィルムが入っているのを確認し、その旨被告人に伝えたが、被告人が、自分で確認したいと言うため、カメラをケースごと被告人に手渡した。すると、被告人は、カメラをケースから出して裏蓋を開け、フィルムが入っているのを見てから裏蓋を閉め、カメラをケースに入れて渡辺に返し、その場を離れて別の部屋に行った。他方、渡辺は、右カメラをケースから出して、ケースの中にチリ紙包みがあるのを見つけ、被告人を呼んで、右チリ紙を取り出して被告人に示し、中身を尋ねたところ、被告人が、そのチリ紙包みを手に取り、これを握り締めてしまったことから、渡辺らと被告人との間で右チリ紙包みを取り合い、結局、渡辺らが取り返して、包みの中から出てきた白色結晶についてマルキース試薬による予備試験をしたところ、覚せい剤であることを示す陽性の反応があった。なお、本箱に並べられていた三〇台位のカメラは、被告人が収集して所有しているものであり、ケースの中に覚せい剤が発見されたカメラには、捜索当時、三六枚撮りのフィルムが入っており、そのうち五枚が撮影ずみであったところ、撮影ずみの五枚のうち最後の二枚は、被告人が、本件捜索が行われた前日夜、妻と同居人の乙川春子をそれぞれ撮影したものである。

右のとおり、被告人所有のカメラのケースの中に覚せい剤が入っていたところ、関係証拠によれば、被告人方では、カメラに手を触れるのは、専ら被告人のみであることが認められること、被告人は、本件捜索の前日夜にも右カメラを使用しており、従って、右カメラには十分フィルムが残っていることを知っていた筈であるのに、警察官が家宅捜索をしている最中に、右カメラを渡辺が調べ始めるや、その中にフィルムが入っているかどうかを心配し出して点検したいと申し出たのは、そのときの状況に照らしてもまことに不自然であり、被告人の右行動は、そのカメラに対する警察官の注意をそぐためのものと認められる。そしてまた、被告人が、カメラケースの中にあったチリ紙包みを示されるや、それを握り締めてしまい、警察官に渡そうとしなかったことを併せ考えると、被告人は、カメラケースの中に覚せい剤が入っていることを知っていたものであり、被告人自身が、その意思に基づき右カメラケースの中に覚せい剤を隠匿して所持していたことを優に認定することができる。

所論は、警察官が、まずカメラから捜索を始めているにもかかわらず、手にして点検していたカメラの入ったケースを、そのまま被告人に渡したのは不自然であり、そのとき、既に覚せい剤等がカメラケースの中にあったとすれば、カメラを最初に手にしたとき覚せい剤等の存在に気づかず、被告人からカメラを受け取ってから初めて覚せい剤等の存在に気づいたというのも不自然であって、本件の覚せい剤の発見過程には警察官の作為が存した疑いがある旨主張する。たしかに、右カメラケースの底に覚せい剤や注射筒等が入れられていると、ケースの蓋をすることはできても、ケース蓋のスナップをかけることまではできないうえ、右ケースは柔らかい材質であるため、その底に触れば、何か異物が入っていることは容易に察知できると認められるのであるが、ケースの底の方でなく、蓋の方を持てば、直ぐには異物が入っていることに気づかないうえ、渡辺は、右カメラを手にするや、被告人からフィルムの有無を尋ねられ、直ぐ被告人に手渡しているのであるから、被告人にカメラを手渡す前に、ケースの中に覚せい剤等があることに気づかなかったことが不自然であるとはいえない。また、所論主張のように、被告人を罪に陥れるために、警察官が、あらかじめ用意した覚せい剤等をカメラケースの中に入れるとすれば、他にもたくさんカメラが置かれていたのであり、かつ、被告人は、六畳間から別の部屋に移ったのであるから、わざわざ被告人が手にしたカメラケースの中に覚せい剤等を入れなくても、被告人が見ていない間に、別のカメラやカメラケースの中に覚せい剤等を入れれば、その目的を達することができ、しかも、かさ張る注射筒等まで入れなくても、覚せい剤のみを入れれば足りることを思うと、警察官が、覚せい剤等をカメラケースの中に入れたとは、到底考えられない。

なお、被告人は、当審公判廷において、本件捜索の前日、右カメラで乙川春子を撮影した後、同女にカメラをしまうように言った、同女は、覚せい剤を使用していた様子があるなどと供述して、カメラケースの中に覚せい剤等を隠したのが同女であることをほのめかすような供述をし、被告人の妻も、当審公判廷において、右供述に沿う趣旨の証言をするのであるが、被告人の右供述は、当審において初めてなされたものであって、捜査段階および原審公判廷においては、右のような供述を全くしていないこと、被告人の妻も、捜査段階において、乙川春子が、カメラに触れた可能性があることを全く供述していないことに照らすと、当審公判廷における被告人およびその妻の各供述は、到底信用することができない。

以上説示したとおり、原判決に所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

なお、本件控訴のうち原判示第三の事実に関する部分については、弁護人下村忠利作成の控訴趣意書には、控訴の理由がないと記載されているのみであるから、控訴趣意としては何らの主張がなく、理由がないことに帰する。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝岡智幸 裁判官 楢崎康英 裁判官 笹野明義)

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